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Selfishly

Selfishly

limitation2









 【注】!!

このお話では、ロイは非道で鬼畜な人間となっております。
  part2からは、エド子のキャラも歪んでおります。(平身低頭!)
  
  その点を苦手とする方は、読まずにいてもらえますように。
  ハッピーエンドでも、楽しいお話でもないと思われます。
  それでもお読みになられる方は、ご自身の判断でご了承頂き
  下記へスクロールしてお進みください。
   *性描写もややございますので、未成年者の閲覧はお止め頂けますように。m(__)m 






























・・・ 喩え、外道と堕ち果てても P2・・・



「あんた、ロイの何?」

見掛けに反したぞんざいな口調だったが、目の前の存在は・・・
そんな事さえ気にならない程の圧倒的な『何か』を秘めていた。




~ ***** ~

物心が付いた頃には、既に父親と呼ぶ人は暮らしていた家には居なかった。
―― お忙しい方でいらっしゃるので、違う所にお住みなのですよ ――

そう乳母は何度も言い聞かせてきたが、子供心にも変だな、とは感じていた。
母は自分を溺愛してくれ、母の父―― つまり祖父も、目を細めて自分を可愛がってくれた。
周囲からの愛情が不断に与えられていたので、寂しいと感じたことは無かった。
・・・・・・ 幼い頃には。

それをおかしいと思うようになったのは、外の世界に出て屋敷の人間以外と会う様になってからだ。
そして・・・父と呼ばれる人と母とが、長くの別居生活をしていることを知ったのは
さらに歳を重ねてから。

本来なら母はこの国のファーストレディーと呼ばれる人だった。
が、周知の事実として母が社交の場に妻として伴う事もなければ、
父と呼ばれる人が ――― 自分に会いに来た事もない。
屋敷には父の写真は無く、自分が父の顔を知ったのは新聞の記事でだった。

父の名はロイ・マスタング。
アメストリスの再国の英雄。そして史上初の若さで大総統へとのし上がった名将だ。
彼が統治し始めてから、アメストリスの国交は開け、文化は花を咲かせ、経済は飛躍的に向上した。
古くはイシュバールの英雄と云う不吉な銘が刻まれていた彼も、時と共に記録は塗り替えられ
東洋の古くからの言い伝えをなぞって、『賢帝』と呼ばれる程に。

が、俺は知っている。
そんな国の英雄と称えられる男が、血も涙も、家族への情も無い非道の奴だと云うことを・・・。



~ ***** ~

「息子・・・?――― 今更、何の用だ」

待たされている応接室にまで届いてくる不快そうな声。

それが自分の父親なのかと思うと、再開の高揚など微塵も残らず、苦々しい思いばかりが
こみ上げてきて、思わず唇を噛んでしまう。

何言か言い合っているような声が聞こえ、苛立たしそうな足音と共にその人は入ってきた。

瞬間、不覚にも動揺で視線が外せなくなる。
自分の父親・・・彼は、そろそろ50代に届こうかと云う歳のはずだ。
――― 嘘だろ・・・。
入ってきた相手は、どう多く見積もっても40には手が届いてないようにしか見えない。
写真などでは何度も目にしてきたが、実物はそれ以上に・・・いや、異様に若いとしか云えない。

「――― 何かね?」
呆然としていた自分に、不機嫌そうな声が届いてはっとなる。
「いえ、あの・・・。――――――――― お久しぶりです」
間の抜けた言葉だが、それ以上の言葉も思いつかなかった。
「・・・ああ、久しぶりだな」
自分からの言葉の何に驚いたのか、彼は眉を上げた後にそう返してきた。

が、彼の意表を付けたのはその時だけで、後は冷静沈着な態度の相手に
何と話したら良いのかと考えあぐねてしまう。

「―― で、一体今日は何の用があってここに?」
話の切り出しは、何も言わない自分に焦れたのか、向こうからあった。
あくまでも冷淡な相手に、自分の腹も据わった。
「――― 先日、無事に士官学校を卒業することが出来ました」
自分のそんなことになど関心なぞ無いだろうと思って口にしたのだが、
相手の返答は以外にも違っていた。
「ああ、聞き及んでいる。主席での卒業だったとかで、家族の方も喜ばれたことだろう。
 おめでとう」
余りの驚きに、思わず返礼が遅れてしまった。
「あっ―――――、・・・ありがとうございます。
 ご存知でいてくれたとは知りませんでした・・・」
僅かばかり心に浮かんだ喜びも、次の容赦ない言葉で粉砕される。
「ああ、当然だ。君の祖父との約束の期限だったからね。
 君が優秀で良かった。本来なら後2年はまたなくてはいけない処だったんだ」
ざっーと血の気が引いていく気がした。
彼は言ってるのだ。息子の成長よりも、自分が自由になれる事が嬉しいと。
――― 何故、こんな男が・・・。
母はこんな非情の男のどこがそんなに良かったのか。
父と離れて暮らし、独りになれば泣き濡れていた母の姿を思い出すと、
目の前の人の皮を被った外道の輩を縊り殺したくなる程の怒りが湧く。

が、漸く祖父との約束の務めも終わり、母はこの後再婚する。
不遇の母を不憫に思ってくれ、慈しんでくれる相手と。

だから自分も、この不毛な感情から解放されようと、ここに来たのではなかったか・・・。

そんな考えに落ち込んでいると、相手から思わぬ助けが差し出される。

「そんな君に報いたいとも思っているから、何か望みがあれば用意させるが?」

自分の今後の計画にとって、相手からのその言葉は渡りに船だった。

「ありがたいお言葉です。私は自分の為にしたまで。褒美を強請れるような立場ではありませんが、
 もし少しでも貴方の息子を覚えていて下さっていたのなら・・・。
 生涯に1度だけ、貴方にお願いしたいことがあります」

情で切り崩せる相手ではないことは、対峙して痛いほど伝わってくる。
が、ここで自分が引くわけにはいかないのだ。
引いてしまえば ――― 自分はしこりを拭い去れないまま生きていかねばならない。

「ほう? 私に聞けることなら良いがね」

自分の決死の思いなど何とも思ってないのか、相手は口元を上げて面白そうに自分を見ている。

「――― 配属先の決まるまでの1月間。・・・ここに居させて頂きたいのです」

そう伝えた時に相手の表情は、生涯、決して忘れられないだろう。
嫌悪と不快感。そして不思議な事に微かな焦り ――― それが自分に向けられた全てだった。





~ ***** ~


即答の拒否。それに対して粘り続けたのが功を奏したのか、彼は渋々滞在を認めてくれた。

但し、幾つかの条件を付けて。

「私に今更、父親の情なぞ求めないように。
 はっきり言って、自分に子供がいると思った事は無い」

結局、彼にとって自分は家系を残すための奉仕の産物なのだろう。

「それと、――― 特にこれは重要な事だが・・・。
 中庭の奥へは絶対に足を踏み込まないでもらおう。
 ――― 興味も持つな」

それを告げた時の相手の気迫は、怖ろしいほど鋭く大きかった。
もし守らなかった場合。屋敷を追い出されるなどの生ぬるい報復では済まされないだろうと
思うほどに。

だから自分は一も二もなく首肯した。・・・深く考える間もないままに。


そして、この屋敷に居候として住むようになってから1週間ほど立った。

その間に判った事等、皆無に等しかった。
何故なら、彼はほぼ屋敷には居なかったからだ。
朝食の席にも、夕食の席にも、彼が同席した事は無い。
勿論、職務上戻って来れなかった日もあったのだが、その日以外は
どんなに遅くなろうとも帰宅している・・・のにだ。

ある夜半、部屋の電気を消して考え事に浸っていると、門の方から
微かな車の音が聞こえた気がして、窓辺へと向かう。
自分の部屋からは表は良く見えないのだが、通り過ぎる車影が彼の帰宅を確認させた。

その時に浮かんだ予感 ――― それは確信にも近い閃きだ。

その閃きを確かめようと、そっと部屋を出て反対側へと足を向ける。

その時丁度、執事に見送られながら中庭に入っていく奴の姿が見えた。
遠目でも、その足取りは軽く愉しそうに写る。
手にはご丁寧に、何かの土産なのか小袋を持ちながら・・・。

その夜から、自分の中には1つの事実が刻み付けられた。
彼にはこの庭の向こうで待つ人が居るのだと。



その日からチャンスを狙って、中庭に近づこうとするのだが、
家の奉公人の全てが監視しているのかと思うように、遮られ邪魔が入る。

だから、その日は本当に偶々の偶然だったのだ。

主からの緊急の連絡が屋敷に入り、使用人たちが右往左往しているほんの僅かな隙。
その隙を逃さず、よくよく注意しながら中庭を突っ切っていく。

そして、一軒の小さな家が見えてきた時、不覚にも涙が浮かびそうになった。

そこは余りにも、自分が住んでいた屋敷にも、彼が住んでいると言われている屋敷とも違う。
こじんまりと設えられながらも、快適さは疑うことも出来ないような、
――― 暖かいホームが在ったのだった。




~ ***** ~

「おいっ。あんた、口が利けないのかよ」
苛立ちを隠そうともしない乱暴な声に、浸っていた思いが断ち切られた。
「あっ・・・・・・」
何か言葉を返そうと思うのに、なかなか言葉は喉から出てこない。

――― それに、彼女は何と言った?
     ロイ。そう彼女が呼び捨てにした相手の何だと聞いてこなかったか?

自分は母親に良く似ていると云われてきた。
遺伝子から考えると、父親に似そうなものなのに、運命とはどこまでも皮肉で
父親の情の薄さを写すかのように、自分と父の相似点は少ない。

その自分を見て、何故すぐさまそんな問いかけが浮かんできたのだろうか?

ロイのそんな葛藤をどうやって見抜いたのか、少女は外見とは似合わない不敵な笑みを浮かべる。

「悩むこと無いぜ。俺は少々特別だからな。
 ――― あんたはさしずめ、ロイの血縁者か何かか?」

明晰な推測に絶句させられる。真実を告げて良いのか判らないままに頷いて。
しかも、言葉にしてしまったのは、ほんの少しの報復のつもりだったのだろうか・・・。

「あいつの・・・。ロイ・マスタングの ――― 息子だ」

その言葉にどんな反応を返すのか。それが物凄く気になった。
自分の推測が当たっていれば、彼女は囲われ者だろう。
そんな立場の人間からすれば、正妻の子供なぞ鬱と惜しい存在に決まっている。

なのに少女は、納得したと云うように朗らかに笑ったのだった。

「やっぱな。どうりで気配が濃いと思ったぜ」

そう言ったかと思うと、女性が男性を見るには遠慮が無さ過ぎる視線で、
上から下まで検分するように視線を突きつけてくる。

そして何やら思案しているかと思った後。

「なあ、あんた暇?」
その問い掛けに、暫し固まってしまう。
「俺、時間を持て余してんだよな。ちょっとこっち来て、相手してくんない?」

その言葉を理解するのに、たっぷりと数分はかかっただろう。
そして、理解が出来るとどうしようも無いほどの嫌悪と憎悪がこみ上げてくる。

――― この娘は、信じられない事に、主が不在時に自分を誘うような
    ふしだら極まりない娼婦なのだ。

馬鹿にするな!と罵倒が喉まで出掛かって、寸での処で止まる。

――― この娘を寝取られたと知れば、あの男はどんな顔を・・・。
    どんな思いを抱くのだろうか・・・。

母の時のようにあっさりと捨ててしまう可能性もある。
が、――― そうではないと、自分の中の誰かが告げている。

彼女こそは、彼のウイークポイントなのだ、と。
娘ほどの歳の少女に現を抜かしている、愚かな男の。

「ああ・・・。良いだろう」

気づけばそんな言葉が理性とは逆に、口から吐き出されて行っていた。

――― ささやかな復讐だ・・・。

そう自分に言い聞かせている己が滑稽だ。
そう・・・それは唯の言い訳に過ぎない。
何故なら、自分はその少女に囚われたまま、視線も意識も外せないでいるのだから・・・。


【あとがき】

この続編は、はせはせ様に捧げます。
リクエスト頂いた期待の通りになっていれば良いのですが・・・。
そして、まだ続きます。(笑)
非道、甚だのお話ではありますが、宜しくお付き合い下さい。

    












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